従業員1〜30名の法人向け

「うちは10人未満だから」——それでも就業規則を作るべき理由

義務がない会社ほど知ってほしい、「規則がなくて困る日」の話

WORK RULES FOR SMALL TEAMS

就業規則の作成・届出が義務になるのは、常時10人以上の労働者を使用する事業場です(労働基準法第89条)。10人未満なら法律上の義務はありませんが、就業規則がないと懲戒処分・休職・固定残業代などの運用に根拠がなく、トラブルのときに会社が不利になります。助成金の要件にも関わるため、10人未満でも作成をおすすめします。

こんにちは。アプト社会保険労務士事務所の社会保険労務士、氏家です。
「うちはまだ6人だから、就業規則はいらないですよね?」——このご質問、本当によくいただきます。法律の答えは「はい、義務はありません」。でも私の答えは「それでも、作っておいてほしいんです」。今日はその理由を、実際に困る場面と一緒にお話ししますね。

就業規則の作成義務は何人から?

常時10人以上の労働者を使用する事業場に、作成と労働基準監督署への届出の義務があります。パート・アルバイトも人数に含めます。

「10人」の数え方には、ちょっとしたルールがあります。ここを勘違いしている方が多いので、表で整理しますね。

「常時10人以上」の数え方
ポイント内容
単位会社全体ではなく事業場(本社・支店・店舗)ごとに数える
含める人正社員のほか、パート・アルバイト・契約社員も含む。派遣社員は派遣元でカウントするため含めない
「常時」の意味常態として10人以上かどうかで判断。繁忙期だけ一時的に超える場合は含めず、欠員で一時的に9人になっても義務は続く

本社6人・店舗5人のように、事業場ごとに見れば10人未満——この場合、届出義務はどこにも生じません。逆にひとつの事業場が10人に届いたら、その事業場について作成・届出が必要になります。

10人未満なら作らなくても問題ない?

法律違反にはなりません。でも就業規則がないと懲戒処分ができず、休職・服務規律・固定残業代といった制度も、根拠のないまま運用していることになります。

「規則がなくて困る日」は、ある日突然やってきます。代表的な3つの場面をご紹介しますね。

その1:問題行動を注意する以上のことができない
遅刻を繰り返す、無断欠勤する、情報を持ち出す——。裁判実務では、あらかじめ就業規則に懲戒の種類と事由を定めて周知していなければ、懲戒処分はできないとされています。規則がない会社は、どんなに困った行動にも「注意する」以外の手段を持てないんです。

その2:長期の病気休みに「休職」という選択肢がない
私傷病で長く働けない従業員さんが出たとき、休職制度がなければ「解雇するか、無給のまま在籍させ続けるか」の二択になってしまいます。休職の期間と、復職・退職のルール。これは規則で定めて初めて機能します。

その3:固定残業代・変形労働時間制の足場がない
固定残業代が有効かどうかは制度設計と明示にかかっていますし、1か月単位の変形労働時間制などは就業規則または労使協定の定めが前提です。

助成金にも影響する?

影響します。キャリアアップ助成金の正社員転換制度をはじめ、「就業規則等に制度を定めること」を要件にする助成金がたくさんあります。

たとえばキャリアアップ助成金(正社員化コース)は、正社員への転換制度を就業規則等に定めたうえで転換を実施することが要件。10人未満で届出義務のない会社でも、規定を整えて事業所に備え付けることが求められます。

「よし、申請しよう!」と思い立ってから、まず就業規則づくりで数か月——実は、これがいちばんよくあるパターンなんです。準備しておくべき書類の全体像は申請前に整えておくべき書類リストにまとめています。

作るときに何に気をつける?

厚生労働省のモデル就業規則を土台に、自社の実態に合わせて編集すること。そして、全従業員がいつでも見られる状態(周知)にして初めて効力が生じます。

手順そのものはシンプルです。ただ、気をつけてほしいことが2つあります。

1つ目は「借り物の規則」の危険。モデル規則やネットのひな形には、退職金制度や手厚い休職制度など、自社では導入するつもりのない条文が入っていることがあります。規則に書いた以上、支払う義務・与える義務が生じます。全条文をご自身の会社の実態と突き合わせて、いらないものは消してくださいね。

2つ目は周知。せっかく作っても、金庫にしまったままでは効力が認められません。事務所への備え付けや社内サーバーでの共有など、全員がいつでも確認できる状態にします(労働基準法第106条)。

なお、10人未満の事業場なら労働基準監督署への届出は不要です。ただし、一度作った規則を従業員に不利益に変更するときは、合理性と周知が必要——このルール(労働契約法)は10人以上の会社と同じです。

小規模法人がつまずくポイントは?

よくあるのは、ひな形の退職金規定を消し忘れる、作ったのに周知しない、10人に達したのに届出を忘れる、の3つです。

ひな形の退職金・休職規定をそのまま残してしまう
「退職金は勤続3年以上の者に支給する」——こんな条文を消し忘れると、制度として存在することになり、請求されたら支払う義務が生じかねません。導入しない制度の条文は、必ず削除を。

作っただけで、誰にも見せていない
周知されていない就業規則は、懲戒の根拠として使えません。「社長のパソコンの中にだけある」状態は、残念ながら、無いのとほぼ同じなんです。

10人に達したのに届出を忘れる
採用が進んで事業場が10人に届いたら、従業員代表の意見書を添えて労働基準監督署へ届出です。人数の節目は安全衛生などの義務も変わるタイミングなので、採用計画と一緒に確認しておきましょう。

今日やることチェックリスト

まずは「事業場ごとの人数」と「今ある規程類」の棚卸しから。ここだけでも今日、始めてみてくださいね。

  • 事業場ごとの労働者数(パート含む)を数えて、10人以上の事業場がないか確認する
  • 就業規則・賃金規程・雇用契約書など、今ある規程類を一覧にする
  • 懲戒・休職・固定残業代など、運用しているのに規定がない制度を洗い出す
  • 厚生労働省のモデル就業規則を入手して、自社に不要な条文に印をつける
  • 完成後の周知方法(備え付け場所・共有フォルダ)を決める

よくある質問

従業員代表の意見書は、反対意見だと届出できませんか?

届出できます。必要なのは意見を聴くことで、同意を得ることではありません。反対意見が付いていても就業規則の効力や届出の受理には影響しません。ただ、反対の理由には運用上のリスクが表れていることも多いので、内容にはきちんと向き合うことをおすすめします。

パート用の就業規則は分けたほうがいいですか?

賞与・退職金・休職などの待遇が正社員と違うなら、パート用規則を分けるか、適用範囲をはっきり書いた条文にすべきです。適用範囲があいまいなまま1本の規則しかないと、正社員向けの条文がパートさんにも適用されると判断されるおそれがあります。

就業規則と雇用契約書の内容が食い違ったら、どちらが優先されますか?

就業規則を下回る労働条件の契約は、その部分が無効になって就業規則の水準まで引き上げられます。逆に、就業規則を上回る条件を個別に約束していた場合は、その契約が優先します。契約書のひな形を見直すときは、就業規則との整合も必ずセットで確認してくださいね。

就業規則を作ったら、社会保険や労働保険の手続きも変わりますか?

就業規則を作ること自体で保険手続きが変わることはありません。ただし、規則に定めた休職・時短・手当などの制度を実際に運用すると、給与額の変動を通じて社会保険の随時改定などに関わることがあります。制度設計の段階で影響を確認しておくと安心です。

まとめ:義務がなくても、「会社を守る道具」として作る

10人未満の会社に就業規則の義務はありませんが、懲戒・休職・助成金の場面で就業規則は会社を守ってくれます。問題が起きてからでは間に合いません。

就業規則というと「従業員を縛るもの」というイメージがあるかもしれません。でも本当は、ルールを見える化して、働く人と会社の両方を守るもの。社長が現場も総務も兼ねている規模の会社ほど、「判断を規則に預けられる」メリットは大きいんですよ。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

就業規則づくり、お手伝いします

「モデル規則のどこを直せばいいか分からない」「うちの実態に合う休職・固定残業の規定にしたい」——そんなときは、どうぞお気軽にご相談ください。就業規則の新規作成・見直しはアプト社会保険労務士事務所がお手伝いします。

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アプト社会保険労務士事務所(千代田区)/給与計算・入退社手続き・就業規則・人事労務相談 監修:★監修者名★(社会保険労務士)
※本記事は2026年9月9日時点の法令・公表情報に基づいています。個別の規定内容は必ず専門家にご確認ください。

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