10月がやってくる前に。最低賃金の改定で確認したい3つのこと
時給の人だけじゃない、月給の社員さんの「時給換算」まで
MINIMUM WAGE UPDATE 2026令和8年度の地域別最低賃金は、国の審議会が全国加重平均1,176円の目安を示しており、都道府県ごとの確定額が例年10月前後に発効します。会社が確認すべきは、①自県の確定額と発効日、②最低賃金と比較する賃金の範囲(通勤手当や時間外手当は除く)、③月給者の時給換算、の3点です。発効日以降の労働分から新しい額が適用されます。
こんにちは。アプト社会保険労務士事務所の社会保険労務士、氏家です。
10月が近づくと、毎年そわそわするのが最低賃金の改定。「時給のパートさんだけ上げれば大丈夫」と思っていたら、実は月給の正社員さんが下回っていた——これ、毎年本当に起きている見落としなんです。今日は、発効前に済ませておきたい3つの確認を、順番どおりにお話ししますね。目安額の詳しい話は令和8年度の最低賃金の記事もどうぞ。
- 今年の最低賃金はいくらに、いつから変わる?
- 最低賃金と比べる「賃金」はどこまで?
- 月給の社員はどうやって確認する?
- 下回っていたら何をすればいい?
- 小規模法人がつまずくポイントは?
- 今日やることチェックリスト
- よくある質問
今年の最低賃金はいくらに、いつから変わる?
令和8年度の目安は全国加重平均1,176円で、都道府県ごとの確定額と発効日は各労働局から公表されます。発効は例年10月前後です。
最低賃金は「国の目安→各都道府県の審議会の答申→官報公示→発効」という流れで、毎年改定されます。金額も発効日も都道府県ごとに違うので、必ずご自身の会社の所在地について、労働局や厚生労働省の「地域別最低賃金の全国一覧」で確定額と発効日を確認してくださいね。
新しい額が適用されるのは「発効日以降の労働」の分から。給与の締め期間の途中に発効日が来る場合、その日以降に働いた時間分から新単価で計算します。「締め日まで旧単価のまま」にはできないので、ここは要注意です。
最低賃金と比べる「賃金」はどこまで?
比較の対象は毎月支払われる基本的な賃金だけです。時間外手当・通勤手当・家族手当・精皆勤手当・賞与などは除いて比べます。
「総支給額を時間で割ったら超えているからOK」——実はこれ、よくある誤りなんです。最低賃金法のルールでは、次のように仕分けして比較します。
| 区分 | 具体例 |
|---|---|
| 算入する | 基本給、職務手当・役職手当など毎月固定で支払われる手当 |
| 算入しない | 時間外・休日・深夜の割増賃金、通勤手当、家族手当、精皆勤手当、賞与など臨時・1か月を超える期間ごとの賃金 |
特に気をつけたいのが固定残業代。名前が「営業手当」でも、実態が残業代なら比較から除外します。固定残業代込みの金額で「クリアしている」と思っていた会社が、除外して計算し直したら下回っていた——これが、いちばん危ないパターンです。
月給の社員はどうやって確認する?
月給から除外賃金を引いた額を、月平均所定労働時間で割って時給換算し、改定後の最低賃金と比べます。
計算式は「(月給−除外賃金)÷月平均所定労働時間」。月平均所定労働時間は「(365日−年間休日)×1日の所定労働時間÷12か月」で出せます。一度、例を見てみましょう。
計算例:基本給19万円+通勤手当1万円、年間休日120日・1日8時間勤務の場合
月平均所定労働時間=(365−120)×8÷12=約163.3時間
時給換算=190,000円(通勤手当は除外)÷163.3時間=約1,163円
→ 改定後の最低賃金が1,163円を上回る地域では、引き上げが必要になります。
時給の方は単価そのままで比べられるので見落としにくいのですが、月給・日給の方はこの換算をしない限り気づけません。全従業員分の時給換算表を、毎年この時期に更新する——これをぜひ習慣にしてください。
下回っていたら何をすればいい?
発効日以降の賃金を、新しい最低賃金以上に引き上げます。最低賃金を下回る賃金の定めはその部分が無効となり、最低賃金額で支払ったものとみなされます。
最低賃金法により、下回る労働契約は当事者が合意していても効力を持ちません。「本人が納得しているから」は通用せず、差額は未払賃金として残り続けます。罰則の定めもあります。対応はこの順番で進めましょう。
- 下回る(または僅差の)従業員さんを特定して、発効日からの新単価・新月給を決める
- 給与ソフトの単価マスタと、雇用契約書・労働条件通知書の賃金欄を更新する
- 時給を上げたパートさんは、3か月後に社会保険の随時改定(2等級以上の差)に当たらないか判定する
- 引き上げの原資が厳しいときは、賃上げと設備投資を支援する業務改善助成金の活用を検討する(要件・金額は最新年度の交付要領で確認してくださいね)
小規模法人がつまずくポイントは?
よくあるのは、単価マスタの更新が発効日に間に合わない、固定残業代込みで判断してしまう、時給アップ後の社会保険への影響を案内していない、の3つです。
締め期間の途中で発効するのに、「翌月から切り替え」のつもりでいる
新単価は発効日以降の労働分から適用です。「10月21日〜11月20日の給与から反映」だと、発効日から締め日までの分が最低賃金割れに。発効日をまたぐ月は、期間を分けて計算してくださいね。
固定残業代を含めた金額で「クリアしている」と思い込む
比較のベースは、固定残業代を除いた基本部分です。求人票の見栄えのために基本給を低く、固定残業代を厚くしている会社ほど、この落とし穴にはまりやすいんです。
時給アップ後の社会保険・扶養への影響を案内しない
時給が上がると、年収の壁や社会保険の加入基準に近づくパートさんが出てきます。制度は今まさに変わってきているので、「働き損になるから」とご本人が自己判断でシフトを減らす前に、最新の仕組みを案内してあげてください。詳しくは「106万円の壁」の記事でお話ししています。
今日やることチェックリスト
発効日から逆算して、9月のうちにこの5つを済ませておくと、10月の給与計算が荒れませんよ。
- 自県の改定後の最低賃金額と発効日を、労働局の公表で確認する
- 全従業員(月給者含む)の時給換算表を作り、下回る人・僅差の人を特定する
- 固定残業代・各種手当の内訳を確認し、比較から除外すべき賃金を整理する
- 新単価の適用開始日を給与担当者と共有し、単価マスタの更新日を決める
- 雇用契約書・労働条件通知書・求人票の賃金表記を更新する
よくある質問
給与の締め日の途中で最低賃金が変わったら、どう計算しますか?
発効日以降に働いた時間分から、新しい最低賃金以上の単価で計算します。1つの締め期間を旧単価の期間と新単価の期間に分けて計算するか、実務を簡単にしたいなら、締め期間の初日から前倒しで新単価を適用しても問題ありません(従業員さんに有利な取り扱いだからです)。
試用期間中や研修中は、最低賃金を下回ってもいいですか?
原則、下回れません。試用期間中の減額特例は、都道府県労働局長の許可を受けた場合に限って認められる例外的な制度です。許可なく「研修中だから」と低い時給を設定することはできません。
派遣社員には、どこの最低賃金が適用されますか?
派遣先の事業場がある地域の最低賃金が適用されます。派遣元と派遣先の都道府県が違う場合は、実際に働いている派遣先の地域の額で確認してください。派遣を受け入れている会社さんも、ここは押さえておきたいポイントです。
最低賃金ぎりぎりの設定は問題ありますか?
法律上は、最低賃金以上であれば適法です。ただ、毎年の改定のたびに引き上げ対応に追われますし、採用市場では見劣りしがちです。改定額を先取りした賃金テーブルにしておくと、毎年の実務負担と求人の競争力、両方の面で楽になりますよ。
まとめ:確認は「額と発効日・賃金の範囲・時給換算」の3点
最低賃金対応は、自県の確定額と発効日の確認、比較する賃金の範囲の整理、月給者を含めた時給換算の3点で漏れなく進められます。
最低賃金の改定は、毎年必ずやってくる行事です。「10月:新単価の適用、翌年1月:時給改定した方の随時改定判定」まで年間カレンダーに入れてしまえば、もう慌てることはありません。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
「うちの月給の社員、下回っていないか不安…」「固定残業代の設計ごと見直したい」——そんなときは、お気軽にご相談くださいね。最低賃金対応・賃金制度の点検はアプト社会保険労務士事務所がお手伝いします。
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※本記事は2026年9月12日時点の公表情報に基づいています。都道府県ごとの確定額・発効日は必ず労働局の最新の公表をご確認ください。

