勤怠管理システムの導入は、使い方次第で「天国」にも「地獄」にもなります。法改正対応や業務効率化を目的に導入したものの、形骸化して失敗する企業は少なくありません。この記事では、勤怠管理DXによって残業削減と生産性向上を両立させた成功事例と、逆に混乱を招いた失敗事例を具体的に比較・分析。貴社がDXを成功に導くための実践的な教訓を提示します。
【成功事例】株式会社A(ITサービス業):データ活用でプロジェクト収支を可視化
課題
エンジニアの労働時間がプロジェクトによってバラつき、長時間労働が慢性化。どのプロジェクトにどれだけ工数がかかっているのかExcel管理では限界があり、正確な収支管理が困難でした。
施策と成果
プロジェクト別の工数管理機能がある勤怠管理システムを導入。従業員は日々の勤怠打刻と同時に、どのプロジェクトに何時間従事したかを入力するように徹底しました。これにより、リアルタイムでプロジェクト毎の採算状況が可視化できるように。不採算プロジェクトの早期発見や、特定エンジニアへの負荷集中をデータで把握し、人員配置の最適化に繋げました。結果、平均残業時間は30%削減され、従業員の満足度も向上しました。
【成功事例】B製作所(製造業):スマホ打刻で現場の負担を劇的削減
課題
工場や複数の現場事務所にタイムレコーダーを設置していましたが、直行直帰の従業員の打刻漏れや、管理職による月末の集計・承認作業が大きな負担となっていました。
施策と成果
スマートフォンアプリでGPS情報と共に打刻できる勤怠管理システムを導入。従業員は現場到着時・離脱時に手元のスマホで簡単に打刻できるようになり、打刻漏れが激減。管理職も、PCやスマホからいつでも部下の勤務状況を確認し、承認作業を行えるようになりました。これにより、給与計算のための勤怠データ締め作業が5営業日から1営業日に短縮。管理職が本来のマネジメント業務に集中できる時間を創出しました。
【失敗事例】株式会社C(小売業):目的不在のトップダウン導入
経緯と問題点
「働き方改革関連法に対応するため」という漠然とした目的で、経営陣が価格の安さだけで勤怠管理システムを選定し、トップダウンで導入を決定。しかし、店舗ごとの複雑なシフト勤務やヘルプ業務の実態にシステムの機能が合わず、従業員は結局、システムへの入力と並行して従来の紙のシフト表での管理を続けざるを得ませんでした。

教訓
DXの失敗は、ツールそのものより「導入プロセスの問題」に起因します。このケースの教訓は以下の2点です。
- 目的の曖昧さ:「法対応」だけでなく、「どの業務を、どのように効率化したいのか」「それによってどんな価値を生み出したいのか」という具体的な目的設定が不可欠でした。
- 現場の不在:実際にシステムを使う現場の従業員や管理職をシステム選定のプロセスに巻き込まず、彼らの業務フローを無視したことが最大の失敗要因でした。
事例から学ぶ、勤怠管理DX成功の3つの鉄則
成功と失敗の事例は、私たちにDXを成功させるための普遍的な鉄則を教えてくれます。
- 鉄則1:目的を多角的に設定する
「コンプライアンス遵守」や「工数削減」といった守りの目的だけでなく、「従業員の働きやすさ向上」「データ活用による生産性向上」といった攻めの目的を掲げることが、全社の協力を得る上で重要です。 - 鉄則2:経営が主導し、現場を巻き込む
DXは人事部任せのプロジェクトではありません。経営トップが「なぜDXが必要なのか」というビジョンを明確に語り、現場の意見を吸い上げながら、全社一丸となって推進する体制が成功の鍵です。 - 鉄則3:導入後の「活用」こそが本番
システム導入はスタートラインです。蓄積された勤怠データを分析し、「どの部署の残業が多いのか」「その原因は何か」といった課題を抽出し、業務改善や人材育成に繋げる文化を醸成していくことが最も重要です。
まとめ:自社に合ったDXで「働きがい」と「生産性」を両立する
他社の成功事例をそのまま真似るだけでは、DXは成功しません。自社の課題は何か、何を達成したいのかを徹底的に議論し、自社に合ったツールと進め方を選ぶこと。それが、単なる業務効率化に留まらず、従業員の働きがいと企業の生産性を同時に高める戦略的DXへの道です。
よくある質問(FAQ)
Q1: 小規模な会社でも、高価な勤怠管理システムは必要ですか?
A1: 必ずしも高価なシステムは必要ありません。近年は、従業員1人あたり月額数百円から利用できる安価で高機能なクラウド型勤怠管理システムが数多く存在します。無料プランを提供しているサービスもあるため、まずは自社の規模や必要な機能(ICカード、スマホ打刻、シフト管理など)を洗い出し、スモールスタートで試してみることをお勧めします。
Q2: システム導入で失敗しないためのベンダー(提供会社)選びのポイントは?
A2: 3つのポイントがあります。①サポート体制の充実度(導入時の設定支援や、導入後の問い合わせに迅速に対応してくれるか)、②業界特有の慣行への理解度(自社の業種・業態に詳しいか)、③拡張性(将来的に人事評価や給与計算など他のシステムと連携できるか)です。価格だけでなく、長期的なパートナーとして信頼できるかを見極めましょう。
Q3: 従業員から「監視されているようだ」と反発があった場合はどうすればよいですか?
A3: 導入目的を丁寧に説明し、理解を得ることが最も重要です。「会社は皆さんを監視したいのではなく、労働時間を正確に把握して健康を守り、サービス残業を防ぎたい。そして、業務を効率化して、より生産的な仕事に時間を使えるようにしたい」というポジティブなメッセージを経営者自らが伝えることが効果的です。