フリーランス活用など、柔軟な人材活用法として広がる「業務委託契約」。しかし、その運用方法を間違えると、実質的には労働者と同じだと判断される「偽装請負」となり、多大な法的リスクを負う可能性があります。この記事では、偽装請負と判断される基準と、そうならないための契約書作成・実務上の注意点を具体的に解説します。安心して外部人材を活用するための知識が身につきます。
偽装請負とは?なぜ問題になるのか
偽装請負とは、契約形式は「請負(業務委託)」であるにもかかわらず、実態が「労働者派遣」や「労働者供給」に該当する状態を指します。これは、労働者派遣法の許可を得ずに派遣を行ったり、社会保険料や労働保険料の支払いを免れたりするための脱法行為と見なされます。
もし偽装請負と判断された場合、発注者(会社側)は、労働基準法や労働安全衛生法上の雇用主としての責任を問われ、未払いの残業代請求や社会保険への遡及加入、悪質な場合は刑事罰の対象となるリスクがあります。
「労働者性」が判断される4つのポイント
偽装請負かどうかは、契約書の名称ではなく、以下の4つのポイントから総合的に「労働者性」の有無が判断されます。
- 仕事の依頼、業務従事の指示等に対する諾否の自由の有無: 発注者からの具体的な業務依頼を、受託者が断れるか。
- 業務内容及び遂行方法に対する指揮命令の有無: 発注者が受託者に対し、具体的な作業手順や時間配分などを細かく指示・管理していないか。
- 勤務場所及び勤務時間が指定され、管理されているか: 始業・終業時刻や勤務場所が厳格に定められ、管理されていないか。
- 本人に代わって他の者が業務を行うことを発注者が許諾しているか: 受託者が自分の判断で補助者を使ったり、業務を再委託したりすることが認められているか。
これらの点で「No」が多くなるほど、労働者性が強いと判断されやすくなります。つまり、会社からの「指揮命令」があると見なされるかが最大の分かれ目です。
偽装請負を回避するための実務上の注意点
契約書を整えるだけでなく、日々のやり取りが重要です。
- 契約書に指揮命令関係がないことを明記する: 成果物の仕様や納期は定めますが、業務の進め方は受託者の裁量に委ねることを記載します。
- 細かな業務指示や命令をしない: 「〇〇をこの手順でやってください」ではなく、「〇〇を〇日までに完成させてください」という依頼の仕方を徹底します。
- 時間管理をしない: タイムカードでの勤怠管理や、定例の朝礼への参加強制などは避けるべきです。
- 他の従業員と明確に区別する: 社員証の貸与や、社内行事への参加強制など、従業員と同一の取り扱いをしないようにします。
外部人材との協業は、会社の成長に不可欠です。正しい知識でリスクを管理しましょう。ご不安な点は専門家である社労士にぜひご相談ください。
よくある質問(FAQ)
Q1: 業務委託の相手に、会社のメールアドレスを付与しても問題ないですか?
A1: 業務遂行上、必要不可欠な場合は許容されることもありますが、偽装請負と判断されるリスクを高める一因にはなり得ます。会社の従業員であるかのような外観を与えてしまうため、フリーメールなど個人のアドレスでやり取りするか、外部パートナー用の専用ドメインを用意するなどの配慮が望ましいです。
Q2: 業務委託契約でも、交通費などの経費は支払っても良いのでしょうか?
A2: 業務の成果物に対する「報酬」とは別に、成果物を完成させるために必要となった実費(交通費、通信費、材料費など)を支払うこと自体は問題ありません。ただし、従業員の給与のように通勤手当として定額を毎月支払う、といった形式は避けるべきです。
Q3: 偽装請負を指摘するのは、どのような機関ですか?
A3: 主に労働基準監督署や公共職業安定所(ハローワーク)が、労働者からの申告や調査によって偽装請負を指摘します。また、社会保険事務所(年金事務所)が、社会保険への加入逃れを指摘するケースもあります。