見過ごしがちな「36協定」のワナと「60代社員」の処遇問題 - 2025年に向けた人事戦略

見過ごしがちな「36協定」のワナと「60代社員」の処遇問題 - 2025年に向けた人事戦略

「毎年、当たり前に提出しているから大丈夫」――。時間外労働に不可欠な「36協定」を、単なる年中行事だと思っていませんか?その手続きの不備が、ある日突然、会社全体の残業を違法状態にし、刑事罰の対象となるリスクを秘めています。

さらに2025年、60代社員の働き方と処遇に大きな影響を与える法改正が迫っています。本記事では、この2つの見過ごされがちな重要テーマを取り上げ、企業の存続に関わるコンプライアンスと人事戦略のポイントを解説します。

テーマ1:その36協定、無効かも?手続きの不備が招く致命的打撃

最近、無効な36協定の下で残業させたとして企業が書類送検される事案がありました。36協定が無効と判断される最大の原因は、内容ではなく「手続きの不備」、特に「労働者の過半数代表者の選出方法」にあります。

あなたの会社の36協定は大丈夫?緊急セルフチェック

以下の項目に1つでも「いいえ」があれば、協定が無効と判断されるリスクがあります。

36協定が無効と判断されたら…?

その影響は計り知れません。

  • 残業が全て違法に:会社は時間外労働を命じる法的根拠を失い、全ての残業が違法となります。
  • 刑事罰の対象:経営者や労務管理責任者は、労働基準法違反で罰則(6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金)の対象となります。
  • 企業名の公表:悪質な場合、厚生労働省のサイトで企業名が公表され、社会的信用が失墜します。
  • 未払い残業代請求:当然、割増賃金の支払い義務は発生し、過去に遡って請求されるリスクがあります。

たった一人の従業員からの申告で、会社全体のコンプライアンス体制が崩壊する可能性があるのです。今すぐ、自社の選出プロセスが適正か監査してください。

テーマ2:2025年、60代社員の給与が減る?高年齢者雇用の新課題

2025年4月、高齢者雇用に関する2つの重要な変更が同時に施行されます。これは、60歳以降の社員のモチベーションと生活に直結する問題です。

  1. 高年齢雇用継続給付の縮小
    60歳以降の賃金低下を補填する給付金の給付率が、現行の最大15%から最大10%に引き下げられます。(2025年4月1日以降に60歳に達する社員から適用)
  2. 65歳までの雇用確保の完全義務化
    経過措置が終了し、全ての企業で65歳までの雇用確保が完全な義務となります。

政府のロジックは「65歳までの雇用が当たり前になるのだから、賃金低下を補う特別な支援は減らしていく」というものです。

企業が迫られる「難しい判断」

これまで給付金の存在を前提に再雇用後の賃金設計をしていた企業は、大きな課題に直面します。

  • 給付金の縮小分を、会社が手当などで補填するのか?
  • それとも、従業員の手取りが減ることを受け入れてもらうのか?

この問題への対応を誤ると、シニア社員のモチベーションを著しく低下させ、組織全体の活力を削ぐことになりかねません。

まとめと提言:人事制度再設計の好機と捉える

これらの変化は、単なる制度変更への対応に留まらず、戦略的な人事制度を見直す絶好の機会です。

【36協定について】
コンプライアンスの土台です。単なる事務手続きと軽視せず、法の趣旨を理解し、選出プロセスの適正化と記録保管を徹底してください。

【高齢者雇用について】
単に賃金を減額するだけの「継続雇用」モデルから脱却すべき時です。60代社員の豊富な経験やスキルを活かせる新たな役割(若手への技術伝承、専門アドバイザー職など)を定義し、その役割と貢献に見合った公正な処遇を定める「セカンドキャリア」モデルへの移行を加速させましょう。

いずれのテーマも、早期に社員と丁寧なコミュニケーションを取り、透明性の高い対応を進めることが、将来のトラブルを防ぎ、企業の持続的成長に繋がります。

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