【2025年改正対応】育児・介護休業法、両立支援の義務化と企業の対策 | 経営者のための労務リスク対策レポート 第9回

【2025年育児・介護休業法改正】企業の義務と両立支援策を完全ガイド

はじめに:「努力」から「義務」へ――家族支援の新時代

2025年、育児・介護休業法は、企業の在り方を根底から変える可能性を秘めた、抜本的な改正を迎えます。これまでの「努力義務」や「推奨」といった表現は影を潜め、厳格な法的義務が企業に課されることになります。本稿では、この大規模改正を「育児支援の強化」「介護離職の防止」「柔軟な働き方の義務化」という3つの柱で整理し、経営者が今すぐ着手すべき対応を網羅的に解説します。

育児支援の強化:男性育休給付拡充と子の看護休暇の対象拡大

今回の改正は、従業員が経済的な不安なく育児に参加できる環境を整えることに主眼を置いています。

新たな経済的セーフティネットの創設

  • 出生後休業支援給付:子の出生後、両親がともに14日以上の育児休業を取得した場合、最大28日間、休業前の賃金の13%が上乗せ給付され、育児休業給付と合わせて給付率が実質80%(手取りで10割相当)に引き上げられます。これは男性の育休取得を強力に後押しする画期的な制度です。
  • 育児時短就業給付:2歳未満の子を養育するために短時間勤務を選択した従業員に対し、短縮勤務中に支払われた賃金額の10%を給付する新制度です。これにより、時短勤務による収入減が緩和され、制度利用が促進されます。

従業員の権利拡大

  • 子の看護等休暇:対象となる子の範囲が「小学校3年生修了まで」に拡大され、取得事由に「入学式等の行事参加」も含まれるようになります。また、これまで労使協定で除外可能だった勤続6ヶ月未満の労働者も対象となります。
  • 所定外労働の制限(残業免除):残業免除を請求できる子の年齢が「3歳未満」から「小学校就学前まで」に拡大されます。

企業の新たな義務

  • 男性の育休取得率の公表義務拡大:これまで従業員1,000人超の企業に課されていた男性の育休取得状況の公表義務が、300人超の企業にまで拡大されます。
  • テレワーク導入の努力義務:3歳未満の子を養育する労働者から申し出があった場合、事業主はテレワーク等の措置を講じるよう努めなければなりません。

介護離職防止の新義務:個別周知と雇用環境整備

介護を理由とした離職は、企業にとって貴重な人材の損失です。改正法は、これを防ぐための具体的な措置を義務化します。

企業の新たな義務

  • 個別の周知・意向確認:労働者本人またはその配偶者が妊娠・出産等を申し出た際や、労働者から家族の介護の必要性が生じた旨の申し出があった際に、企業は関連制度を個別に知らせ、その利用意向を確認することが義務付けられます。
  • 雇用環境の整備:介護と仕事の両立を支援するため、①全管理職を対象とした研修の実施、②相談窓口の設置と周知、③社内の両立支援制度の利用事例の収集・提供、といった措置を講じることが義務となります。
  • 介護休暇の要件緩和:これまで対象外とできた「1週間の所定労働日数が2日以下」の労働者も介護休暇を取得できるようになり、パート・アルバアルバイト従業員も制度を利用しやすくなります。

柔軟な働き方の義務化:テレワークなど2つ以上の選択肢提供が必須に

今回の改正で最もインパクトが大きいのが、この「柔軟な働き方の選択制」の導入です。

「2つ以上を選択」制度

3歳から小学校就学前の子を養育する労働者に対し、企業は以下の5つの制度のうち、2つ以上の措置を講じ、労働者がその中から1つを選択できるようにすることが義務化されます。

  1. 始業時刻等の変更(フレックスタイム、時差出勤など)
  2. テレワーク
  3. 保育施設の設置運営等
  4. 新たな休暇の付与(子の行事参加や通院等に使える休暇)
  5. 短時間勤務制度

これらの改正群が示すのは、政府の政策の根本的なパラダイムシフトです。単に「休む権利」を保障する段階から、国が主導して「働き続けられる企業文化と業務体制」を企業に構築させる段階へと移行したのです。特に「2つ以上を選択」制度は、画一的な制度提供を許さず、企業に柔軟な働き方の選択肢(ポートフォリオ)を構築することを強制します。これは、仕事の進め方そのものの見直しを迫るものです。また、男性育休取得率の公表義務拡大は、両立支援を企業の社会的評価を測る公的な指標へと変え、市場からの改革圧力を生み出します。もはや、就業規則に条文を一行追加するだけのコンプライアンスは通用しません。これは、柔軟なインフラ、管理職の教育、そして透明性の高いコミュニケーションへの戦略的かつ多面的な投資を必要とする、大規模な経営改革なのです。

【一覧表】2025年育児・介護休業法改正の変更点と企業対応チェックリスト

改正内容 対象者/企業規模 施行時期 企業が取るべき対応(チェックリスト)
出生後休業支援給付の創設 両親が共に14日以上の育休を取得した労働者/全企業 2025年4月1日
  • 給与計算システムを新給付に対応させる
  • 従業員へ新制度を周知する
  • 社内の休業申請書式を見直す
育児時短就業給付の創設 2歳未満の子を養育し時短勤務をする労働者/全企業 2025年4月1日
  • 給与計算システムを新給付に対応させる
  • 時短勤務制度と合わせて従業員に周知する
子の看護等休暇の対象拡大 小学校3年生修了までの子を持つ労働者/全企業 2025年4月1日
  • 就業規則の関連規定を改定する
  • 勤続6ヶ月未満の労働者を除外する協定を廃止する
  • 管理職に制度変更を周知する
男性育休取得率の公表義務化 従業員300人超の企業 2025年4月1日
  • 自社の取得状況を把握する体制を構築する
  • 公表方法(自社HP等)を決定する
  • 目標設定と達成に向けた行動計画を策定する
介護に関する個別の周知・意向確認 介護に直面した労働者/全企業 2025年4月1日
  • 申し出があった際の面談フローを確立する
  • 周知用の資料(制度一覧等)を準備する
  • 管理職に義務化された旨を教育する
介護のための雇用環境整備 全企業 2025年4月1日
  • 全管理職向けの研修を計画・実施する
  • 相談窓口を正式に設置し、全社に周知する
  • 社内事例の収集と共有方法を検討する
柔軟な働き方のための措置(2つ以上選択) 3歳~小学校就学前の子を持つ労働者/全企業 2025年10月1日
  • 導入可能な制度(5つの選択肢から)を検討・決定する
  • 就業規則を改定し、選択手続きを明記する
  • 従業員のニーズを把握するための調査を実施する

結論:コンプライアンスから競争優位へ

これらの改正を単なるコスト増と捉えるか、人材獲得競争における武器と捉えるかで、企業の未来は大きく変わります。本質的な両立支援を実現する企業は、労働力人口が減少する日本において、優秀な人材を惹きつける強力な磁石となるでしょう。経営者は今こそ、①就業規則の全面的な見直し、②「2つ以上を選択」制度の予算化と計画策定、③全管理職への新義務に関する研修、④育休取得状況の公表準備、という4つのアクションプランに即刻着手すべきです。

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