36協定違反のリスクを「30万円以下の罰金」だけだと思っていませんか?実は、それは氷山の一角に過ぎません。違反が発覚した場合、未払い残業代の遡及請求、訴訟費用、企業の信用失墜による採用難や顧客離れなど、経営の根幹を揺るがす甚大なダメージに繋がります。この記事では、経営者が知っておくべき7つの具体的な経営リスクを、社労士が徹底解説します。
リスク1:労働基準法に基づく直接的な罰則
まず最も直接的なリスクは、労働基準法第119条に定められた罰則です。36協定を未締結・未届出で残業させたり、協定の上限を超えた残業をさせたりした場合、「6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金」が科される可能性があります。これは刑事罰であり、会社の経歴に傷がつくことを意味します。
リスク2:高額になりがちな「未払い残業代」の支払い命令
労働基準監督署の調査や、従業員からの申告によって違反が発覚した場合、過去に遡って未払いだった残業代の支払いを命じられることがほとんどです。残業代請求の時効は現在3年であり、対象従業員が多ければ、支払額は数千万円から億単位に膨れ上がるケースも珍しくありません。
リスク3:未払い残業代と同額を支払う「付加金」のリスク
さらに、未払い残業代の問題が裁判に発展した場合、裁判所は企業に対して、未払い金の支払いに加え、それと同額の「付加金」の支払いを命じることができます。つまり、本来支払うべきだった金額の最大2倍の支払いを求められる可能性がある、非常に厳しいペナルティです。
リスク4:企業の評判を地に落とす「ブラック企業」認定
労働基準法違反などの事実が公になると、厚生労働省の「労働基準関係法令違反に係る公表事案」として、企業名が公表されることがあります。いわゆる「ブラック企業リスト」です。一度ここに掲載されると、その情報はインターネット上に半永久的に残り、企業のブランドイメージを著しく損ないます。
リスク5:採用活動の壊滅的な難化と採用コストの高騰
「ブラック企業」の烙印は、採用活動に致命的な影響を与えます。現代の求職者は、企業の口コミサイトやSNSを徹底的に調査します。悪い評判が広まれば、応募者は激減し、優秀な人材の獲得は絶望的になります。結果として、採用エージェントに支払う費用が増大するなど、採用コストの大幅な上昇を招きます。
リスク6:従業員の離職と社内の士気低下
劣悪な労働環境は、既存の従業員のエンゲージメントを低下させ、離職率の増加に直結します。優秀な社員が次々と辞めていくことで、ノウハウの流出や生産性の低下を招き、残った従業員の負担が増加するという負のスパイラルに陥ります。
リスク7:取引停止や融資への悪影響
コンプライアンス遵守が厳しく問われる現代において、労働法違反は取引先からの信頼を失う原因にもなります。特に大企業との取引では、サプライチェーン全体での法令遵守を求められることが多く、取引停止のリスクも現実的です。また、金融機関からの融資審査においても、労務リスクはマイナス評価の対象となります。
これらのリスクを避けるためには、日頃からの適切な労務管理が不可欠です。当事務所の労務監査サービスもぜひご検討ください。
まとめ:36協定遵守は、コストではなく未来への投資
36協定を守ることは、単なる義務ではありません。従業員が安心して働ける環境を整え、企業の持続的な成長を実現するための戦略的な経営投資です。目先の利益のために労務管理を疎かにすると、いずれ何倍にもなって手痛いしっぺ返しを受けることを、経営者は肝に銘じるべきです。
よくある質問(FAQ)
Q1: 従業員が納得して残業している場合でも、36協定違反になりますか?
A1: はい、なります。労働基準法は、個別の合意よりも優先される「強行法規」です。たとえ従業員本人が「もっと働きたい」と希望し、残業に同意していたとしても、会社が法律で定められた上限時間を超えて労働させた場合、会社側が罰則の対象となります。
Q2: 労働基準監督署は、どのような場合に調査に来るのですか?
A2: 調査には、定期的に対象企業を選んで行われる「定期監督」、労働者からの申告(通報)を受けて行われる「申告監督」、労働災害が発生した際に行われる「災害時監督」などがあります。特に「申告監督」は、元従業員や在職中の従業員からの情報提供がきっかけとなることが多く、突然行われるのが特徴です。
Q3: 違反してしまった場合、どうすればよいですか?
A3: もし違反の事実がある場合は、速やかに是正することが重要です。まずは実態を正確に把握し、未払い残業代の計算などを行います。その上で、労働基準監督署に相談し、指導に従って是正報告書を提出する流れが一般的です。問題を放置せず、誠実に対応することが、ダメージを最小限に抑える鍵となります。迷った場合は、すぐに社会保険労務士などの専門家にご相談ください。

