勤怠管理DXで明暗!生産性を向上させた企業の成功事例と、導入に失敗した企業の教訓

勤怠管理システムの導入(DX)は、単にタイムカードをデジタル化するだけではありません。成功企業は「労働時間の可視化」を武器に、残業削減生産性向上を両立させています。しかし、目的が曖昧なまま導入し、高価なタイムレコーダーとしてしか機能していない失敗企業も後を絶ちません。本記事では、社労士の視点からDXの成功・失敗事例を比較分析します。

なぜ今、勤怠管理のDX(デジタルトランスフォーメーション)が必須なのか

かつての勤怠管理は「給与計算のため」の集計作業でした。しかし今は違います。

  • 複雑な法規制への対応:36協定の上限規制(複数月平均80時間など)、有給休暇の年5日取得義務など、Excel管理では限界がある。
  • 多様な働き方への対応:テレワーク、フレックスタイム、時差出勤など、従来の時間管理が通用しない。
  • 生産性向上の必要性:労働人口が減少する中、「誰が・何に・どれだけ時間を使っているか」を把握し、業務効率化に繋げる必要がある。

これらの課題を解決する手段が、勤怠管理システムの導入、すなわち「人事労務DX」なのです。

【成功事例】A社(ITサービス業):リアルタイム可視化で「ムダ業務」を削減

導入前の課題

A社では、残業申請や勤怠の締めを紙とExcelで運用していました。そのため、人事部が全社の残業時間を把握できるのは翌月10日過ぎ。管理職も、部下の残業が月末まで正確に把握できず、36協定の上限を超えそうな従業員がいても、有効な対策を打てませんでした。

DX施策

リアルタイムで打刻・残業時間が集計され、36協定の上限アラート機能が充実しているクラウド型勤怠管理システムを導入。さらに、プロジェクト別の「工数管理」機能を連携させ、「どの業務に時間がかかっているか」まで可視化できるようにしました。

導入後の成果

管理職がダッシュボードで部下の残業状況をリアルタイムに把握できるようになり、「今日は早く帰す」「この業務は別の人に振る」といったマネジメントが機動的に行えるようになりました。また、工数分析から「会議時間」と「社内資料作成」に多くの時間が割かれていることが判明。全社的な業務プロセス見直しに繋がり、導入半年で平均残業時間を20%削減しつつ、生産性を向上させることに成功しました。

勤怠管理DXによる成功事例(労働時間の可視化から生産性向上への流れ)

【失敗事例】B社(製造業):「とりあえず導入」で形骸化

導入前の課題

労働基準監督署の調査で、労働時間の把握が不十分だと指摘されました。2024年からの法改正(建設・運送業の上限規制など)も迫っており、法遵守のために急いでシステム導入を検討し始めました。

DX施策

経営陣が「とにかく安く、早く」を指示。複数のシステムを比較検討せず、最も安価だったパッケージ型システムを導入しました。しかし、そのシステムはB社が長年使っている給与計算ソフトとデータ連携ができませんでした

導入後の成果

従業員は新しいシステムで打刻するものの、人事部は結局、そのデータを給与計算ソフトに手作業で二重入力することに。現場の負担は増大しました。36協定のアラート機能も使いこなせず、経営層も集計データを「残業が多いな」と眺めるだけ。データは一切分析・活用されず、システムは単なる「高額なデジタル・タイムカード」と化してしまいました。

事例から学ぶ、勤怠管理DX成功への3つの鍵

この両社の明暗を分けたのは、ツールの価格や機能の差だけではありません。

  1. 目的の明確化(Why):失敗したB社は「法遵守(守り)」が目的でした。成功したA社は「生産性向上(攻め)」という明確な目的を持っていました。
  2. 自社運用との適合性(How):B社は給与計算ソフトとの「連携性」を見落としました。自社の業務フロー(特に給与計算)とシームレスに連携できるかは最重要ポイントです。
  3. 導入後のデータ活用(Who):A社は「管理職」がデータを活用してマネジメントを変えました。システム導入はゴールではなく、データを「誰が」分析し「どう」活かすかという経営層のコミットメントが不可欠です。

勤怠管理DXは、適切なツールを選び、明確な目的意識を持って運用すれば、残業削減と企業成長の両方を実現する強力な武器となります。


よくある質問(FAQ)

Q1: 勤怠管理システム導入の最大のメリットは何ですか?

A1: 「法遵守の自動化」と「経営判断材料の可視化」の2点です。
36協定の上限アラート、有給休暇の取得義務管理、月60時間超残業の自動計算など、複雑な法規制への対応を自動化できます。同時に、従業員の労働時間をリアルタイムで可視化・分析することで、非効率な業務の特定や、人員配置の最適化といった、経営判断に直結するデータを得ることができます。

Q2: たくさんあるシステムから、何を選べばよいですか?

A2: 「自社の働き方」と「既存システムとの連携性」で選びます。
テレワークやフレックス制が多いなら、スマホ打刻やPCログ取得が柔軟なクラウド型が適しています。また、導入に失敗しないために最も重要なのは、現在使用中の「給与計算ソフト」とCSVやAPIでスムーズに連携できるかを確認することです。ここで連携できないと、二重入力の手間が発生し、DXが失敗に終わります。

Q3: 従業員がシステム入力を面倒くさがります。どうすれば定着しますか?

A3: 導入の「目的」を丁寧に説明し、「入力が楽な」仕組みを選ぶことです。
「会社が従業員を監視するため」というネガティブなメッセージではなく、「適正な評価、健康管理、そしてムダな業務をなくしてみんなが早く帰るため」というポジティブな目的を経営層から発信し続けることが重要です。また、ICカード認証やスマホアプリなど、従業員にとって入力の手間(ストレス)が最小限になる打刻方法を選ぶことも定着の鍵です。

\ 最新情報をチェック /

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です