この記事では、人事労務の基本である36(サブロク)協定について、その目的から時間外労働の上限、罰則、そして臨時的な残業を可能にする特別条項まで、社労士が分かりやすく解説します。2024年4月から適用が拡大された上限規制の最新情報も踏まえ、36協定の正しい知識と運用方法が身につき、法遵守の第一歩を踏み出せます。
そもそも36協定とは?なぜ「サブロク」と呼ばれるの?
36協定とは、正式には「時間外労働・休日労働に関する協定」といいます。労働基準法第36条に定められていることから、通称「36(サブロク)協定」と呼ばれています。
日本の法律(労働基準法)では、労働時間は原則として「1日8時間・1週40時間」までと定められています(法定労働時間)。また、休日は「毎週少なくとも1回」与えなければなりません(法定休日)。この法定労働時間を超えて従業員に時間外労働(残業)をさせたり、法定休日に労働させたりする場合には、必ずこの36協定を会社と労働者の代表との間で締結し、労働基準監督署に届け出る必要があります。この届出がなければ、たとえ従業員が同意していても残業をさせることは法律違反となります。
知らないと危険!36協定で定められる時間外労働の上限【原則】
36協定を締結すれば、無制限に残業させられるわけではありません。法律によって、時間外労働には厳格な上限が定められています。
- 月の上限: 45時間
- 年の上限: 360時間
これが「時間外労働の上限規制」の原則です。この時間を超えて残業をさせることは、原則としてできません。違反した場合は、6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金という罰則が科される可能性があります。
緊急時に必須!「特別条項付き36協定」とは?
通常の業務量では対応できない、突発的なトラブルや大規模なクレーム対応、納期の逼迫など、臨時的な特別な事情がある場合に限り、「特別条項付き36協定」を締結することで、先ほどの原則の上限を超える時間外労働が可能になります。
ただし、特別条項を適用しても、無制限に働かせることはできません。以下のすべてを守る必要があります。
- 時間外労働は年720時間以内
- 時間外労働と休日労働の合計が月100時間未満
- 時間外労働と休日労働の合計について、「2ヶ月平均」「3ヶ月平均」「4ヶ月平均」「5ヶ月平均」「6ヶ月平均」がすべて1月あたり80時間以内
- 時間外労働が月45時間を超えることができるのは、年6ヶ月が限度
特に「複数月平均80時間」のルールは見落としがちなので注意が必要です。また、2024年4月からは、これまで猶予されていた建設業、運送業、医師などにもこの上限規制が適用されており、すべての企業で遵守が求められています。
より詳しい割増賃金率の変更については、こちらの記事「令和5年4月1日施行 月60時間超の時間外労働に対する割増賃金率の引上げについて」もご参照ください。
36協定と残業代(割増賃金)の正しい関係
36協定はあくまで「残業をさせることを可能にする協定」であり、「残業代を支払わなくてもよくなる協定」ではありません。36協定を締結した上で、法定労働時間を超えた労働に対しては、必ず割増賃金(残業代)を支払う義務があります。
基本的な割増賃金率
- 時間外労働(法定労働時間超): 25%以上
- 休日労働(法定休日労働): 35%以上
- 深夜労働(22時~翌5時): 25%以上
- 時間外労働が月60時間を超えた場合: 50%以上(中小企業も2023年4月から適用)
例えば、月60時間を超える時間外労働を深夜に行った場合、割増率は50%+25%=75%以上となります。正確な計算が企業の信頼を守ります。
まとめ:36協定は健全な労務管理のスタートライン
36協定は、従業員に時間外労働を命じるために不可欠な法的手続きです。その内容を正しく理解し、上限時間を遵守することは、法律違反のリスクを回避するだけでなく、従業員の健康を守り、健全な職場環境を築くための第一歩です。まずは自社の36協定の内容を再確認し、適切な運用ができているかチェックすることから始めましょう。
よくある質問(FAQ)
Q1. 36協定を届け出ていないのに残業させたらどうなりますか?
A1. 労働基準法第32条違反となり、同法第119条に基づき「6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金」が科される可能性があります。これは、残業代を支払っていても同様です。
Q2. パートやアルバイトにも36協定は必要ですか?
A2. はい、必要です。雇用形態に関わらず、法定労働時間(1日8時間・週40時間)を超えて労働させる場合は、すべての労働者が36協定の対象となります。
Q3. 「特別条項」はどんな理由でも使えますか?
A3. いいえ、使えません。「臨時的な特別な事情」が必要であり、「通常業務の繁忙」といった恒常的な理由では認められません。協定には「予算、決算業務」「ボーナス商戦に伴う業務の繁忙」「大規模なクレームへの対応」など、具体的な理由を記載する必要があります。

