多くの経営者が「残業=コスト」と捉え、削減に躍起になっています。しかし、それは問題の半分しか見ていません。これからの時代、労働時間管理は法遵守(守り)のためではなく、従業員エンゲージメントと企業価値を高めるための「戦略的投資(攻め)」です。本記事では、経営者が今すぐ持つべき新しい時間管理の視点を提言します。

なぜ「残業ゼロ」を目指すだけではダメなのか?

「とにかく残業を減らせ」という号令だけでは、現場は疲弊します。業務量は変わらないまま定時退社を強いられれば、持ち帰り残業やサービス残業が横行し、かえってエンゲージメントは低下します。重要なのは、時間の「量」を減らすことではなく、時間の「質」を高めること。つまり、従業員がより付加価値の高い仕事に集中できる環境を、経営が主導して創り出すことなのです。

チェスの駒を動かす経営者の手。労務管理が戦略の一部であることを象徴している。

「攻めの時間管理」がエンゲージメントを高める3つのメカニズム

客観的なデータに基づく戦略的な時間管理は、従業員のエンゲージメントを飛躍的に向上させます。

① 公平性の担保:頑張りが正当に評価される文化

勤怠データと人事評価を連携させることで、「長く会社にいる人」ではなく「時間内に成果を出す人」が正当に評価される文化が醸成されます。この公平性が、従業員の信頼とモチベーションの基盤となります。

② 自律性の促進:従業員が主体的に時間をデザインする

無駄な会議の削減や業務プロセスの見直しによって生まれた時間を、従業員が自律的に使えるようにすることが重要です。フレックスタイム制や時間単位の有給休暇制度などを活用し、従業員に時間のコントロール権を与えることで、ワークライフバランスが向上し、主体性が育ちます。

③ 成長機会の創出:余暇が新たなイノベーションを生む

残業が減って生まれた時間は、従業員にとって自己投資(学習、資格取得)やリフレッシュの時間になります。こうしたインプットの機会が、結果として新たなアイデアやイノベーションの源泉となり、企業の成長に繋がるのです。

経営者が今すぐ下すべき3つの戦略的決断

「攻めの時間管理」を実践するために、経営者には3つの決断が求められます。

  1. 決断1:時間あたり生産性を経営の最重要KPIに据える
    売上や利益だけでなく、「従業員一人当たりの時間あたり付加価値額」を最重要KPIとし、経営会議で常にモニタリングする。
  2. 決断2:勘ではなく、データに基づいて業務プロセスを再設計する
    勤怠データや工数データを分析し、ボトルネックとなっている業務を特定する。その上で、ITツール導入やアウトソーシング、業務の標準化などを断行する。
  3. 決断3:「働かせ方」への戦略的投資を惜しまない
    勤怠管理システムや業務効率化ツールへの投資を、コストではなくリターンの大きい「投資」と捉える。従業員のスキルアップ支援や健康経営への投資も同様です。

このような「攻めの時間管理」は、近年注目される「人的資本経営」の根幹をなす考え方です。企業の持続的成長のため、今こそ時間管理のパラダイムシフトが必要です。

まとめ:時間管理を制する者が、未来の経営を制する

従業員の時間は、企業にとって最も貴重な資源です。その資源を、法律違反のリスク回避という消極的な理由で管理する時代は終わりました。従業員のエンゲージメントを高め、生産性を最大化し、企業価値を向上させるための戦略的な武器として、時間管理を再定義しましょう。その第一歩を踏み出すのは、経営者であるあなたです。

よくある質問(FAQ)

Q1: 経営者として、まず何から手をつければよいでしょうか?

A1: まずは自社の労働時間の実態を、客観的なデータで正確に把握することから始めてください。勤怠管理システムなどを活用して「誰が・いつ・どのような仕事に」時間を使っているのかを可視化することが、全ての戦略の出発点になります。

Q2: 生産性を上げようとすると、現場から「プレッシャーがきつい」と反発が起きませんか?

A2: 「もっと働け」ではなく、「もっと楽に、賢く働けるように会社が支援する」というメッセージが重要です。経営者が率先して無駄な会議をやめる、承認プロセスを簡略化するなど、トップダウンで働きやすさを示すことが、現場の理解を得る鍵です。

Q3: 「人的資本経営」と時間管理は、具体的にどう繋がるのですか?

A3: 人的資本経営とは、従業員を「資本」と捉え、投資によってその価値を最大限に引き出す経営手法です。従業員の貴重な「時間」という資本を、いかに付加価値の高い活動に振り向けるか、いかに成長投資(学習など)の時間に繋げるか、という時間戦略そのものが、人的資本経営の実践に他なりません。

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